インプットされた英語量以上にアウトプット(話す)ことは出来ない!

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By Dr. K. Kinoshita(木下和好): YouCanSpeak 開発者・同時通訳者・元NHK TV・ラジオ 英語教授

キャッシュカードと英語スピーキングの類似性

「英語の実力」は「預金残高」に例えることが出来る。キャッシュカードあるいはクレジットカードを使う時に重要なのは「残高」だ。預金残高が少なければカードはすぐに使えなくなる。カードを思う存分使いたければ、予め預金残高を増やしておく必要がある。同じように英語思い通りに話したければ、英文を瞬時に作り出すための材料(=預金残高)を脳内に蓄えておくことが大切だ。

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多くの英語学習システムは(それがネイティブとのグループレッスンでも、個人レッスンでも、あるいは独学形式の会話レッスンでも)、アウトプット(口に出して言う)に重点が置かれ、インプット学習(英語を話すために必要な要素を脳裏に刻み込むための学習)が不十分なケースが多い。これは残高不足状態でカードを使おうとする行為に似ている。「英語預金」が残高不足だと、効果的なアウトプットの練習も難しくなり、何年学習を続けてもカタコト英語の域から抜け出すことが出来ない。

アウトプット練習は確かに重要

今、英語の「インプット」の重要性を訴えているが、決してアウトプット練習が重要ではないというわけではない。ことばは「音声」と「意味」の2大要素で成り立っているので、英語を声に出して練習することは必須である。英会話を習得したい場合、音声を伴わない学習は問題外となる。

それで、覚えた英語はいつか誰かに音声を使って言ってみることが大切だ。その意味でネイティブスピーカー、あるいはネイティブではないにしても、英語を話せる人と実際に英語で会話をする練習は重要である。今は世界のどこに住んでいても、あるいは回りに英語が話せる人がいなくても、オンラインで英語スピーキングの練習をすることが可能になったので便利だ。

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誰かと実際に英語を話すチャンスに恵まれない場合でも、アウトプット練習をあきらめる必要はない。英語で「独りごと」を言ったり、本、雑誌、新聞などを音読することもアウトプットの効果的な練習となる。(英語の速読練習も大切ではあるが、口の運動神経を発達させる意味では、音読の習慣は非常に効果的である)

学校英語教育はアウトプット不足

日本の学校英語教育でスピーキング力があまり伸びないのは、英語の授業も受験勉強も、英語を音声として捉えることに重点を置かず、あくまでも文字言語として捉え、英語の文章構造等を学問の対象としているからだ。アウトプット練習はネイテイブスピーカーが教える限られた時間の会話クラスの時だけで、普通の授業では音声によるアウトプット練習が非常に少ない。その結果スピーキング力がなかなか身に付かない学生を大量に排出してしまう。

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キャッシュカードと英語スピーキングの違い

キャッシュカードで現金を引き出すことと、英語を口に出して言う行為は、通帳あるいは脳内に保存されているものを外に出すという意味では、非常に似ている。でもそれら2つには決定的な違いがある。預金通帳に貯めてあるお金はたとえ何年間も放置されていたとしても、暗証番号さえ正しく入力すれば、いとも簡単に必要金額を引き出し、すぐに使うことが出来きる。現金を引き出すための練習は必要ない。

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一方スピーキングの場合、記憶した英語はいつでも使える状態にはなっているとは限らないので、頻繁に口で音声化する練習をしないと、知っているはずの英語を自由に使えるようにはならない。又預金と違って、長い間放置しておくと、記憶したはずの英語を忘れてしまう。これがキャッシュカードと英語スピーキングの最大な違いである。

オオム返し的スピーキング練習の落とし穴

声に出して英語を言う練習はとても大切だが、声に出すだけでは英語を自由に話せるようにはならない。ネイティブスピーカーが、英語を話せない日本人に教える時、”Repeat after me(私の後について言ってください)”というタイプの練習をさせることが多い。英語を自主的に話せない日本人に英語を言わせる良い方法であるからだ。ネイティブスピーカーの発音を真似して英語を繰り返して言う練習は、とても大切で有意義ではある。でもその学習法だけでは2種類の落とし穴に落ちてしまう。

1つ目の落とし穴は、真似して言う場合、学習者の脳に蓄積されている英語を発する練習ではなく、自分の英語になっていない英語の音(発音)だけを真似する練習になる可能性が大きいことである。このタイプの練習では、「単語の並び方と意味の関連性」に対する意識が薄いまま反復練習が進むので、ことばを知らないオオムが発音だけ真似できるようになるのと大差がないということになりかねない。

2つ目の落とし穴は、学習者がネイティブスピーカーの発音を真似して言うだけでは脳にインプットされる英語の素材が乏しいままなので、いつまで経っても思ったことを自由に英語で言えるようにはならないことである。

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インプットがないスピーキング練習

英語のアウトプット練習は非常に大切だが、英語スピーキングの力を本当に伸ばすためには、十分なインプットがその前提となる。スピーキング練習は、脳内にある英語を口に出す練習であるが、英語の蓄積量が少ないと、練習そのものが成り立たない危険性がある。私は英語を話す場面に遭遇すると必ず “I am …”で始めてしまう学生に出会ったことがある。彼は “I am …”以外の英語をとっさに思い出すことが困難であった。“I am”で英語を言い始めてしまうと、本当に話したい内容からドンドン離れてしまうので、”I am” を2、3度繰り返したのち、口を閉ざしてしまうことになる。

英語を話す機会が与えられた時、脳内からどんな英語が引き出されるだろうか?もし適切な単語や言い方を思い浮かべることが出来なければ、スピーキングはそこでストップしてしまう。

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インプットがアウトプットの大前提

空のボトルから水を飲むことは出来ない。「水を飲む」という行為の前に「ボトルに水を入れておく」ことが必須となる。同じように、「英語を話す」あるいは「英語を話す練習をする」という行為の前に「練習材料を脳内に入れておく」という行為が前提となる。順序は常に「インプット ⇒ アウトプット」となる。

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英語のスピーキング練習をする時、インプトとアウトプットの概念が不鮮明な場合が多く、アウトプットの練習にのみ時間とお金をかけてしまう傾向がある。その結果何年学習しても、実力が伸びないことが多い。

インプットすべき2種類の要素: 素材 vs道具

料理を作る時、食材が無ければ問題外であるが、食材が揃っていても料理は完成しない。おいしい料理を作るには、包丁や鍋やコンロなど色々な調理器具や、場合によっては recipe(レシピ)が必要だ。

家を建てる場合も、木材やセメント等の建材が欠かせないが、建材だけあっても家は建たない。色々な大工道具や正確な図面が必要となる。

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建築や料理と同じように、英語が話せるようになるためには、英語素材(英単語など)だけでなく、それらの単語を適切に並べ、意味ある表現とするための道具が必要となる。

インプットすべき英語の素材

「英語を話す」という行為の大前提となる英語素材には以下のようなものがある。

語彙

2000~3000語程の英単語が脳内に記憶されていれば、日常生活におけるごく一般的な会話にはさほど不自由を感じないだろう。でも多種多様な会話に対応するためには、語彙をそれなりに伸ばして行く必要がある。なお専門用語は、必要に応じて覚えて行けば良い。

イディオム

イディオムとは複数の単語から成り立つ表現で、単語そのものの意味を超えた特殊な意味を伝えるために使われる。完全な文章になっている表現も多い。でもイディオムには英語の表現を豊かにするという役割があるが、別の表現への応用性がないので、英語素材としては単語と同じタイプになる。それゆえ、イディオムを全く知らなくても、英語のスピーキング力を十分に身に付けることができる。

発音・イントネーション・リズム

英語素材を通じる英語として使うためには、個々の単語の発音や、文章になった場合のイントネーション・リズムの感覚も、重要な英語素材となる。

日常的に使われる決まり切った表現

“How are you?” とか “It’s nice meeting you.” のような英文は、日常的に良く使うので、丸暗記的に覚えておくと便利だ。多くの人達は、このような挨拶的英語を言えるようにすることが会話の練習と思っているようである。でも丸暗記的な英文は応用性低いので、単語やイディオムを覚えるのと同じレベルになる。

脳内に蓄積される以上のような英語素材は、多ければ多い程有利ではあるが、素材を増やしただけでは英語を自由に話せるようにはならない。素材自体には応用性や発展性が無いからだ。

英単語を多用しても英語を話したことにはならない

脳内に蓄積される英語素材は多ければ多い程良いが、英語素材が多いからと言って、自由に話せるようになったというわけではない。日本人は普段の会話の中で多くの英単語を使う。でも英語の多用がスピーキング力のバロメーターとはならない。話しているのはあくまでも日本語だからである。

たとえば誰かが 「I は you と talk 出来て very happy だ」と言ったとしよう。この文章では日本語より英単語の方が多く使われている。でもこのような話し方をしたからと言って、英語を話したことにはならないし、英語が話せる人になったわけでもない。なぜならこの文章の構造自体が日本語だからである。

同じようにアメリカ人が “Oh, that’s とてもすばらしいこと、isn’t it?” と言っても、日本語を話したことにはならない。これはあくまでも日本語の表現を混ぜた英語構造の文章、すなわち英文そのものだからである。

このように、どれだけ英単語を覚えたとしても、あるいは英単語を多用したとしても、英語のスピーキングレベルは変わらない。なぜなら英単語はそのままでは建材や食材と同じで、何語を話していてもその中でそのまま使える素材に過ぎないからである。英文を作る前段階の英単語は、あくまでも英語素材であって、それらを知っているだけで、英語が話せるようになったわけではない。

イディオムばかりを教える英会話講師

ネイティブスピーカーが日本人に英語を教える時、日本人がまだ習得していない会話の技術を伝授するのがその使命であるが、「日本人が知らないこと」だけに焦点を合せ、初耳のようなイディオムばかりを教える人がいる。ビックリ情報を教えるのだから、インパクトが強い立派なレッスンのように思えるかもしれない。でもイディオムはそれ自体に応用性が無いので、新しい英単語を教えているのと全く同じである。英単語を多く知っていても、それだけで英語が話せるようになったわけではいのと同じで、イディオムをたくさん覚えても、それだけで英語が話せるようになるわけではない。英語のイディオムもあくまでも英語素材で、それらを覚えるだけでは不十分である。

英語と日本語を分かつ要素のインプットが必須

英単語や英語の固定表現を多用しても英語を話していることにはならず、日本語単語や日本語の固定表現を多く織り交ぜても日本語を話していることにはならないことは明確になった。では英語と日本語を分かつ決定的要素は何であろうか?それは「単語の並べ方のルール」である。「こういう単語の並べ方の時はこのような意味になる」とか「このような思いを伝えたい場合はこのような単語の並びになる」という約束事はどの言語にも存在する。それらの約束事の違いが、英語と日本語を分かつ要因となる。

英語を話す時は、英語の約束事に従って話さないと意味が通じないし、 約束事に従って話せば意味が通じるということになる。英語の素材としての単語やイディオムを英語として使うためには、この約束事のインプットが絶対的に必要となる。これは文法用語を使った説明ではなく、「意味が違えば言い方が違い」「言い方が異なれば意味も異なる」という形での約束事の把握である。

英語スピーキング習得プログラムである YouCanSpeak は、これらの約束事を脳裏に刻むために開発されたスピーキング上達教材である。約束事の要素は175あるが、これらを自由自在に組み合わせる練習をすることにより、どんな内容の英語でも(短い英文であっても、あるいは非常に複雑そうに見える長い文章でも)、瞬時に作り出し音声化することが出来るようになる。

その一番の特徴が、文章の名詞化と副詞化とそれらの代入練習で、これらが身に付くと、思ったことを何でも瞬時に英語で言うことが出来るようになる。

詳しくは ⇒ 代入方式による英語の簡素化

この記事の監修・執筆者
英語スピーキング教材YouCanSpeak、英語リスニング教材YouCanListen開発者
同時両方向通訳者/ 同時通訳セミナー講師。文学博士。NHK ラジオ・TV「Dr. Kinoshitaのおもしろ英語塾」教授等、各メディアで活躍
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